退職金の受け取り方は、税金だけで決めるのではなく、退職後の生活や資産の状況まで含めて考えることが大切です。いくつかの選択肢を数字で比べながら、自分に合った受け取り方を考えていきましょう。

先日、定年退職を1年後に控えたI様との面談がありました。Kitto Zuttoをご利用いただいて4年目になるI様。現在は職場の転勤で県外にお住まいですが、定期的にミーティングのために足を運んでくださいます。オンラインでもお話しすることはできますが、「ミーティングをきっかけに、昔の友人にも会いに行くんです」とおっしゃって、わざわざ来てくださるのです。

そんなI様も、来年はいよいよ定年を迎えます。これまでの面談で、退職後の生活や公的年金、資産の取り崩し方など、これからの暮らしについて一緒に考えてきましたが、いよいよ「退職金」の金額が具体的になってきました。退職が近づき、実際の金額が見えてきたことで、I様からこんなご相談がありました。「退職金って、結局どうやって受け取るのがいいんでしょう?」実は、退職金は「いくらもらえるか」だけではなく、「いつ、どのように受け取るか」も大切なポイントです。

退職金は「もらい方」まで考える

退職金には、一般的に一括で受け取る「一時金」と、一定期間にわたって受け取る「年金」があります。制度によっては、一時金と年金を組み合わせて受け取れる場合もあります。
どの方法を選べるのか、年金なら何年間受け取れるのか、また受け取り方法を後から変更できるのかなどは、勤務先の制度によって異なります。「退職金が○○万円だから、この方法が正解」という単純な話ではありません。I様の場合も、退職金だけを見て判断するのではなく、
• 退職金はいくらになるのか
• 一時金と年金では、それぞれいくら受け取るのか
• 退職所得控除はどのくらい使えるのか
• 公的年金はいくらになるのか
• いつから公的年金を受け取るのか
• 退職後の生活費はいくら必要なのか
• 手元にどのくらいのお金を残しておきたいのか
こうしたことを一つひとつ整理していく必要があります。

「税金」だけで決めても、うまくいかない

退職金について考えるとき、多くの方が気にされるのが「税金」です。退職金を一時金として受け取る場合、原則として「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されます。例えば、勤続30年の場合、退職所得控除は、
800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
となります。また、退職所得は原則として、
(退職金-退職所得控除額)×1/2
で計算されます。そのため、「退職所得控除がいくらになるのか」は、退職金の受け取り方を考えるうえで重要なポイントになります。ただし、税金が安くなる方法を選べば、それで正解というわけではありません。年金として受け取れば、毎年の収入として生活費に充てることができます。一方、一時金として受け取れば、まとまった資金を手元に置いておくことができます。その資金を預貯金として持っておくのか、将来の支出に備えて運用を検討するのか。選択肢は一つではありません。だからこそ、税金だけではなく、「退職後のお金をどう使っていくのか」まで含めて考えることが大切です。

出典:国税庁

公的年金は「いつから受け取るか」も考える

今回のI様とのミーティングでは、退職金の受け取り方だけではなく、公的年金をいつから受け取るのかについても一緒に考えました。公的年金は原則として65歳から受け取ることができますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰上げて受け取ることもできます。ただし、繰上げ受給をすると、請求した時期に応じて年金額が減額され、その減額率は一生変わりません。そのため、「早く受け取れるから繰り上げる」というだけではなく、「退職後の生活を考えたときに、いつから年金を受け取るのが自分に合っているのか」という視点が必要になります。退職金を一時金で受け取り、その資金を生活費として活用しながら、公的年金の受給開始を待つという考え方もあります。

一方で、早い時期から公的年金を受け取り、毎月の生活を安定させるという考え方もあります。どちらが良いということではありません。退職金の受け取り方、公的年金の受給開始時期、退職後の生活費、そして現在保有している資産。これらを一つの「退職後の生活設計」として考えることが大切です。

受け取る前に考えておくべきこと

今回、I様が特に悩まれていたのは、「一度決めた受け取り方を、後から変更できない」ということでした。退職金や企業年金だけではなく、公的年金の繰上げについても、請求後に取り消したり、受給方法を変更したりすることはできません。だからこそ、実際に手続きをする前に、「自分の場合はどんな選択肢があるのか」「それぞれを選んだら、その後の生活はどうなるのか」を確認しておくことが大切です。退職直前になると、「退職金はいくら?」「年金はいくら?」「いつから受け取る?」という具体的な数字が次々に出てきます。でも、本当に考えたいのは、その数字そのものではありません。そのお金を、これからの人生でどう使っていくのか。そこまで考えて、初めて「自分に合った受け取り方」が見えてきます。

「いくら必要か」の前に考えてほしいこと

退職が近づくと、どうしてもお金のことから考え始めます。「退職金はいくら?」「年金はいくら?」「毎月いくら必要?」もちろん、こうした数字を確認することは大切です。でも、その前に一度考えてみてほしいことがあります。「退職したら、何をして過ごしたいですか?」旅行に行きたい、趣味を楽しみたい、家族との時間を大切にしたい、これまでできなかったことに挑戦したい。あるいは、何も予定を決めずにゆっくり過ごしたい。人によって、やりたいことは違います。そして、やりたいことが違えば、必要になるお金も違ってきます。だからこそ、「いくら必要だから、いくら準備する」だけではなく、「こんな人生を送りたい。そのためには、どのくらいのお金が必要なんだろう」という順番で考えてみることも大切だと思います。

退職は「ゴール」ではなく、新しい生活のスタート

I様とは、Kitto Zuttoをご利用いただいた4年間の中で、これまでにもさまざまなお金のことを一緒に考えてきました。そして今、退職という大きな節目を迎えています。退職金の金額が具体的になったことで、これまで漠然としていた「退職後の生活」が、少しずつ現実のものになってきました。I様の退職まで、あと1年。まだ1年あるからこそ、今のうちに考えられることがあります。退職金の金額や年金額が分かってから慌てて決めるのではなく、今のうちから少しずつ、「これから、どんな時間を過ごしたいのか」「どんな人生を送りたいのか」を考えてみる。その答えが見えてくれば、必要なお金のことも、退職金や公的年金の受け取り方も、少しずつ見えてくるのではないでしょうか。退職金は、長年働いてきた人生の一つの集大成。だからこそ、「いくらもらえるか」だけではなく、「どう受け取るか」、そして「そのお金でどんな人生を送りたいのか」まで考えてみてほしいと思います。

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